軽くて重い

いなだ易のブログ

東京滞在記(前半)

3月上旬に1週間ほど東京に滞在した。東京近郊の水族館と友人を訪ねることが主な目的だ。

合間にTwitterのフォロワーさんに教えてもらった場所を訪れたりもしたので日記を書いてみた。(とはいえあまり行けてないんですが、、)

 

 

3/5(日)

東京にきた。眠い新幹線。

友人の誘いでジャニーズ×ハロプロのコピーダンスDJイベントへ。踊り狂って楽しすぎる。女子校の文化祭や!

 

今はカプセルホテルでこれを書いてる。足元のパーテーションの先がぼんやり明るい。消灯時間はいつなんだろう。はたして消灯するのか?不夜城

 

夜は新大久保で韓国料理を食べたあと、久しぶりの後輩に会った。珈琲西武に並んで待っていてくれた。きょろきょろしてると鮮やかなピンクの人が飛び出して手を振る。

 

卓越しの姿。瞳。珈琲。まだ十代のころから、とりとめないこととか大事なこととか、ずっとおなじ温度感で話してくれてありがたいなあ。通学路の駅ナカパン屋、イートインで永遠に喋ってたのに今日は少ししかいられなかったのが心残りだ。

 

3/6(月)

松屋の朝定食本当にうまい。

寝ぼけ眼で並盛、大盛の文字を見て一瞬何のことかわからず焦る。米か?米だろう。量が増減するのは大体米だ。

 

上野駅には親しみがある。大学生になって、一人で東京に出はじめた頃に訪れた場所だからだろうか。

昔の天王寺周辺に似ているからかもしれない。

 

京葉線は東京駅のしっぽ。葛西臨海公園駅で降りる。歩けど歩けど水族館にたどりつかない……。

あらぬ方向に迷いこんでしまった。水上バス乗り場、誰もいない。案内板の前で呆然とする。遠すぎるよ、一本道だし。仕方ないので逆走。知らない水鳥がチチチチと啼く。芝生の上で椋鳥がなにか啄んでいてかわいい。

 

葛西臨海水族園はわざわざ足を運びたいと思う水族館だけど、好きかと言われるとよくわからない。

中央だ、と思う。水族館に続く道の幅がこんなに広いことないだろ。『オズの魔法使い』の一行はエメラルドの都に続く黄金の道を歩いていたな。

葛西といえばマグロの群泳が有名だが。しかし、私が圧倒されるのは「世界の海」水槽だ。地球上のさまざまな生き物が展示される空間。世界中から集められた水族たち。海外の提携施設の圧倒的な数。そんなのはここしかない。中央ということ。

 

そんな葛西だが、片隅にどうしても心惹かれる一角がある。「海藻の林」。水槽の名前と相まって一枚の絵のように美しい。大木を思わせるジャイアントケルプ。人の作為と生物のままならなさがせめぎ合う一点にあるのが、水槽の美だ。

 

葛西臨海水族園の「海藻の林」水槽の写真

 

増波装置がつくる滝のような水流に細かく震える擬岩。白い泡。一面に敷き詰められた短い赤茶の藻は波に乗ってたえまなくふわふわうごく。赤や黄色のアネモネが静かに咲いている。ホバリングする大きなロックフィッシュたち。身をくねらせると胸びれがひらめく。絵に取り憑かれるような感覚ってこういうのかもしれない。デッキから眺めていると時間を忘れる。

 

水族館を出たのは14時半。陽が傾いてきた。ドームの裏から海を眺める。さざなみが東京湾に溶け合って、水平線につながる。一番きらきらするこの時間に眺められて良かった。

 

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晩ご飯の待ち合わせのため有楽町へ。まだ時間があるけど、どこで暇潰そうか。

とりあえず銀座。伊東屋までぶらぶら歩いて来年度の手帳を買う。

 

銀座もまた広い。東京は広い。東京の広さにやられて足が限界。

ていうか、よく考えたら朝から松屋しか食べていない。

教文館のカフェで冬季限定・グリューワインを飲めるというので気になっていたが、今は珈琲飲みたい……。「炭火焙煎珈琲 凛」へ。銀座でくたびれたらいつも来ている。

 

ケーキセットが1200円程と立地のわりにお手ごろ。決まってロールケーキを頼む。しっとり生地とチョコレートの苦くて甘い香りが染みる。くるみが絶妙のアクセントになってて。手づくりの味がほんとに良い。毎日行きたい。

 

窓際の席で有吉佐和子の『悪女について』を読んだ。

 

外に出ると冬の終わりの街が瞬いている。銀座界隈を歩くときいつも、手に余るよという気持ちになる。全てを把握しきれない街だ。

 

19時半に日比谷公園で落ち合う。あたりはもう真っ暗だった。電灯の光を背に浴びながら駆けてくる人影がなつかしく嬉しい。

京都にいたころは毎週何時間も勉強会をしていたのに、卒業してからは数えるほどしか会えていない。試験だけを目標に、狭い棟で膨大なカリキュラムの波に吞まれていた私たちは、遭難した船に乗り合わせた乗客同士の連帯感だけで結ばれていた。なんとか皆が目的地に辿り着いた後は、別の行路をゆくのが必然なのかもしれない。

 

でも当時、彼女の明るさにどれだけ助けられたかわからない。今でもふと会いたくなるから、「ご飯行こう」と声をかけたのは私からだ。今日中に終わらせなければいけない仕事が残っているのに、無理してきてくれたらしい。顔色が悪く見えると伝えると、「よく言われる」と微笑まれて心が痛んだ。

 

「昔さ、私が専業主婦になりたいって言ったら、あなたは本当に主婦業をやりたいわけじゃなくて今試験勉強したくないだけやろ?なら正しく『猫になりたい』って言いなよ、って叱られたやん」

「この間別の人にその話をしたら『猫の癒し効果をナメるなよ』って言われちゃってさ、もうどうしたらいいかな……」

 

返す言葉を持っていない。

ふたり霞が関のビルに囲まれて、何をいうべきかわからない。とりあえずハグをして別れた。

 

3/7(火)

私にしては早起きしてモーニング。御徒町の老酒舗で。粥&包子か、海苔ワンタンスープ&椒盐饼か、めちゃくちゃ悩んでワンタンスープのセットをえらぶ。お店の人の中国語が耳をすり抜けてゆく。海苔の香りで覚醒する。

 

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こちらは河津桜が咲いている。

不忍池を歩くと「駅伝の碑」。三条から京阪電車に乗るたび見るやつだ!

こんなところに片割れがあったのか。

「駅伝の歴史ここに始まる」「スタートは、京都・三条大橋、ゴールは、ここ東京・不忍池の博覧会正面玄関であった。」

ついにたどり着けた。ぜんぜん走ってないのに達成感あるな?

 

さて、今回上野に泊まった目的は、東京都美術館エゴン・シーレ展。

シーレはウィーンやチェスキークルムロフを訪れたときに作品を見て好きになった。

シーレの描く人の表情は複雑で、他者と相対するときの緊張があるから惹かれる。

なんか自画像見るとシャ乱Q時代のつんくを思い出すんだよな。まあ、シャ乱Qも“自画像”みたいな曲をやってたバンドだし……(?)

 

その後すみだ水族館へ。スカイツリーにはわりと行ったことあるけど、すみ水は初めてだ。

私は水族館をテーマ(展示)パークとして巡っていて、ビル内の水族館は賃貸の制約上どうしても内装や水量の自由度が低いから(それでも好きな館はあるが)足が遠のいてしまう。

でも最近さかなクンがすみ水で生き物を解説する映像を見たので、ようやく旅程に組み込んだ。

 

押上でまずはコーヒーを飲む。春らしくなった風に酸味の強いエチオピア、うまいー。

大江健三郎『空の怪物アグイー』を読む。空も青い。みんなスカイツリーと桜の写真撮ってる。

 

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さて、すみだ水族館。入口のショップに足を踏み入れた瞬間の既視感がすごい。

うわあー、そういえば運営会社オリックスなんだっけ。京都水族館と同じだ。

ていうかなんか、思ってた以上にすべてが一緒だ。

 

グッズのデザイン、館内の設計、水槽内のレイアウトまですべて見覚えがある。上階からも見下ろせるオーバーハング型の大水槽、通路に囲まれた平たいペンギンプール。極めつきは「ペンギン相関図」で、これはオリックス不動産の登録商標らしい。めっちゃチェーン店やん。

すみ水(2012年5月)と京都水族館(2012年3月)はほぼ同時期にオープンしていて、こんなに同じなの面白いな……。

 

日本の水族館のなかで同じ資本が運営する代表的な例として横浜八景島系列(八景島シーパラダイスのほか、マクセルアクアパーク品川、仙台うみの杜水族館、上越市立水族博物館うみがたりなど)がある。けれど、あれらはここまでチェーン店的だと感じなかった(うみの杜は行ったことないけど!)。

 

チェーン型水族館かぁ。たしかにフォーマットとしてかなり洗練されているし、人工海水中心の内陸型水族館を成立させるノウハウも活きる。

展示生物は場所によって変えざるをえないだろうからオリジナリティが完全に失われることはないし、設備やデザインを平準化するのは商業娯楽施設として順当かもなあ。

個人的には各館の展示テーマやその表現の試行の違いを見たくて水族館を巡っているから寂しいけど。全国の有名店が並列に突っ込まれているソラマチの水族館がこうなのも、なるほどなと思う。

 

個人的に京都水族館の好きなところは山紫水明ゾーン(京都の稀少種コーナー)や展示生物の解説板に添えられたイラスト(ほんとに美しいので京都水族館行ったらじっくり見ちゃう)なので、そのあたりの要素がそぎ落とされているのは残念だった。

 

もちろんすみ水の大水槽のテーマは小笠原だし、オリジナルな部分としてはウミガメや金魚の展示があったりするけど、個人的には入ってすぐの「自然水景」ゾーンに見応えを感じたかなあ。金魚の知識がなさすぎるのが理由かもしれないが。

あと入場料高いな……。京都より高いやんけ……。

そんな感じでした。

 

さて、Twitterでおすすめスポットを募集して教えてもらった本屋さん「YATO」を訪れようと心づもりをしていたが、定休日で断念。残念。

 

夜まで時間が空いたので、なんかありそうな蔵前へ。前から行きたかったペリカンカフェでふわふわのトースト。マーマレードがおいしすぎた!

 

そのまま田原町までてくてく歩いて、Readin' Writin' BOOKSTOREで本を物色する。手に入れたかったジェンダー関連の近刊を入手。『第二の性』、『反トランス差別ZINE われらはすでに共にある』、『クリエイティブであれ:新しい文化産業とジェンダー』。

仕事が始まって読む暇あるかわからんけど読みたいときに家にあることが大事なので……。

 

夜は神田で友だちと。久しぶりに会えて嬉しかったなー。サークル同期なんだけど、発想がずっと好きなんだよな。気持ちがほどける時間だな、この会話絶対覚えときたいなと思ってもすぐ忘れちゃうからさみしい。

 

3/8(水)

朝から、昨年寄稿した『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』の編著者である上岡磨奈さんに会いに行く。一人で東京旅行をするとツイートしたら声をかけてくださって初めてのオフ会だった。

 

待ち合わせは表参道。ここぞとばかりに「表参道A5/ハロプロ研修生」を聴きながら銀座線。ぼんやりしていたら「A2出口でお会いできれば…」とメッセージが届いた。

 

自我がなさすぎて予定を完全におまかせしてしまう。

ランチはKINTANのしゃぶしゃぶがおすすめということで予約時間まで街を案内していただくことに。

丸投げ良くなかったなと反省しつつ、人に地元を案内してもらうのってめっちゃ嬉しいよね。

 

表参道の人波に圧倒されながら歩いていると、「太田記念美術館はどうですか?」と。

実は私もフォロワーさんに教えてもらって行きたいと思ってたんです、ということで入館。

 

「広重おじさん図譜」という展示をやっていた。

おじさんをまなざすのは得意だ。

と意気込んだが、「おじさん」同士のホモソーシャルな関係を読むよりも、表情や風俗に焦点を当てる展示だったから微妙に得意分野から外れていた。でも面白かった。「走井」の井戸の絵とか初めて見たし。

いろんな浮世絵師の描く「おじさん」を比較するコーナーもあって、筆致の違う壮年男性が並んでいるとBL雑誌の特集みたいで壮観だな……とか思った。あとやっぱり広重の空の色がきれいだな。上岡さんは好きな絵の感想がサクサク出てきてすごい。

 

流れでラフォーレ原宿も案内してもらう。“らふぉーれ”の語感だけ頭に入ってて像を結んでない感じだったから、急に実体が目の前にあらわれてびびる。

館内にある穴場のトイレを教えてくれたんだけど、都会の人が持ってる秘密ってかんじで良かった。私も梅田地下街を歩くときは、穴場の通路とか穴場の出口の発見に興奮を覚えるタイプだ。

 

おしゃれなしゃぶしゃぶで未知の野菜をモリモリたいらげ、カフェであまおうミルフィーユをつつきながら、かつてハロプロ台湾のオタクをしていたなどの貴重な話を聞かせてもらった。

 

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昔2009年のハロコンを初めて見たときにハロプロ台湾が気になって調べたけど、全然情報が出てこなかったのでじかにお話を聞けて興奮してしまった(もっとまじめなお話もしてくださった。すみません)。

 

上岡さんは終始優しくて自然体で、たたずまいのかっこいい方だった。どのタイミングだったか定かでないが、歩きながら「裏原」とナチュラルに発しているのを聞いて、あややだなーとかぼんやり思っていた。今は「オシャレ!」を聞きながらこの日記を書いている。

 

こうやって、ものを書いて知り合った人と気軽に会ってお話出来るのが東京の楽しみなんだろう。私が住んでいたのはまん防とか緊急事態宣言とかで人に会えない期間だったので、あまり実感なかったが。

中学生の頃、通っている同人サイトの管理人のお姉さんたちが頻繁に遊んでいる様子に憧れてて、東京はインターネット空間の先にある遠い街で、私は一生それを窓からのぞき見することしかできないような気がしていた。それを思えばこうしたご縁は本当にありがたいし嬉しい。

 

夜は神保町に移動してごはん。友人の開店半年のお祝いなので花束を作ってもらう。

今日は国際女性デーで、近くでデモもはじまるみたいだった。表参道の花屋さんに「友人へのプレゼントです」とお願いしたらミモザを入れたのを作ってくれた。男友達だけどまぁ、私の気持ち的にはOKな気がする。

 

夜の記憶はあまりないが、びっくりするくらいワインがおいしかった。